最先端の陽子線治療装置

2011年1月の治療開始に向けて、メディポリス国際陽子線治療センターには最新の陽子線治療装置が導入されました。
その後も更なる高精度治療を目指して、国内メーカーとともに装置・機器の研究・開発を続けています。

陽子線治療装置

陽子線治療装置とは、体の奥深くにある腫瘍まで陽子を集中して照射する装置です。
これを実現するためには、体の奥深くまで陽子が届くように加速し、なおかつ可能な限り正常細胞には影響しないようにする機能が求められます。

センター鳥瞰写真

陽子線治療装置の構成

陽子線治療装置は下記から構成されています。

  1. 陽子線を生成し、初期加速を行う入射系

  2. 陽子線をシンクロトロンに輸送するまでの低エネルギービーム輸送系

  3. 治療に適合したエネルギーまで陽子線を加速するシンクロトロン系

  4. 照射室に効率良く輸送する高エネルギービーム輸送系

  5. 標的形状に陽子線を成形する照射系機器(ビームライン機器)

  6. 陽子線の調整、運転管理、状態監視等を統括して司る制御系

上記以外にも、各系に電源を供給するための電源盤や、電磁石や電源盤等を定温で制御するための冷却水系、機器を圧縮空気にて動作させる圧空系などが施設内に整備されています。

1陽子線を生成し、初期加速を行う入射系

入射系は、主に2つの部分から構成されています。治療に用いる陽子線を生成するイオン源部とシンクロトロンに受け渡すための初期加速を担う線形加速器部です。以下が当センターで使用されている入射器になります。

入射器

陽子線の素となる水素ガスは、陽子(水素原子イオン)と電子に分離されます。イオン源から出た陽子線は、次に線形加速器といわれる部分に送られます。 当センターでは、イオン源と線形加速器を組み合わせ一体化したものを入射器と呼んでいます。さらに、線形加速器部分に高周波を与える電源部分もメンテナンスの向上を図るために一本化されたものを採用しています。

2陽子線をシンクロトロンに輸送するまでの低エネルギービーム輸送系

低エネルギービーム輸送系

入射器で初期加速された陽子線は、次に低エネルギービーム輸送系を通過します。ここではデバンチャーと呼ばれる装置が配置されています。 陽子線は低エネルギーであるほど拡散し易く、ビームを輸送するダクト(配管)にガスが含まれていると陽子線の強度が低下します。そのため低エネルギービーム輸送系では、真空が保たれています。また真空度に変化が無いかを常に監視するため、真空計を配置し常にモニターされています。

3治療に適合したエネルギーまで陽子線を加速するシンクロトロン系

シンクロトロン

入射器で加速された陽子を受け取り、治療で要求されるエネルギーまで加速を行うのがシンクロトロンになります。電磁石を円形に配置して、陽子線のエネルギー上昇とともに磁場を上げ、同一軌道を周回するように制御しています。シンクロトロンの軌道上には、加速用電場部分である高周波加速空洞が配置されており、必要なエネルギーまで加速されます。陽子の加速を担う高周波加速空洞もかなりコンパクトに設計されています。またシンクロトロンの軌道上には偏向電磁石が4個配置された4角形のデザインとなっています。当センターでは、使用する核子を陽子のみに限定することで、陽子線治療加速器としては最小級の周長であるシンクロトロンを実現できています。

シンクロトロンの軌道上には上記の他にも、陽子の強度や位置・形状等を測定する多数のモニター、軌道からのずれを補正するコレクタ電磁石、陽子の運動量の広がりによる電磁石での集束のずれを補正する六極電磁石等が限られた空間に綺麗に配置されています。

シンクロトロンを周回する陽子線は、高真空中でないと残留ガス等により衝突・発散(拡散)し、陽子線の強度が低下する可能性があります。そのため陽子線が通過するビームダクトは真空引きされています。入射系においても同様であり、各種真空ポンプと真空計等真空機器が装備されています。

4照射室に効率良く輸送する高エネルギービーム輸送系

高エネルギービーム輸送系とは、シンクロトロンから取り出された陽子線を治療室1~3の各部屋まで効率よく輸送する部分になります。当センターでは、シンクロトロンから出射された陽子線は治療室1までが最長輸送距離となります。

陽子線の輸送には、軌道を曲げる偏向電磁石や陽子線が発散しないように集束させる働きを持つ四極電磁石が必要となります。高エネルギービーム輸送系はシンクロトロンから出射した後の共通ラインと各治療室へ陽子線を導入するラインの2系統からなります。

高エネルギービーム輸送系(基幹コース)
高エネルギービーム輸送系(回転ガントリーコース)

前者は主にシンクロトロンから出射された陽子線の強度や波形の安定性を確認することができます。後者は回転ガントリーと呼ばれる装置に設置された輸送ラインを通過し、治療室のアイソセンターまで効率よく輸送されます。

高エネルギービーム輸送系において、陽子線は高真空度の配管の中を通り、ビームライン機器の手前まで運ばれます。陽子線を効率よく輸送するためには、陽子線が進行方向(Z方向)に対して作られる平面(X-Y平面)のどこを通過しているのかを把握することが必要となります。そのため位置を測定するスクリーンモニターと呼ばれる測定器が高エネルギービーム輸送系に多数設置されています。陽子線の位置(軌道)のずれが大きい場合は、ステアリング電磁石と呼ばれる二極の電磁石によって、容易に位置を調整することができます。

入射・主加速器系と同様に電磁石は冷却水によって温度が一定に保たれています。

5標的形状に陽子線を成形する照射系機器(ビームライン機器)

高エネルギービーム輸送系を通過してきた陽子線は治療室に届く前にビームライン機器を通過します。陽子線はこのビームライン機器を通過することで、測定に応じたビーム形状や、治療に適した形状に加工されます。患者さんを治療するために十分検討された治療計画(シミュレーション)の陽子線を、実際に成形しているのがビームライン機器になります。成形されたビームは治療室内のアイソセンターに届くよう設計されています。このビームライン機器が図8になります。

ビームライン機器

1.ワブラ電磁石:直交する2方向に電磁石を配置し、交流電源により磁力を発生させることで、ワブラ電磁石間を通る陽子線を必要な照射野(標的のサイズ)に合わせて拡げることができる装置です。

2.散乱体:ワブラ電磁石で拡げられた陽子線を散乱させ、ビームの進行方向に対して作られる平面上において、陽子線を平坦にする機器である。複数の散乱体を設置できる架台(回転体)により任意の散乱体を選択することができます。

3.ブロックコリメータ:必要な範囲以外に散乱する陽子線を遮断する働きがあります。

4.線量モニター:照射される線量を測定するための装置になります。大気開放型の線量モニターを二重化(主線量モニター、副線量モニター)しています。

5.リッジフィルタ:ブラッグピークの幅を変化させる機器になります。複数のリッジフィルタを設置できる架台(回転体)を使用することにより任意のリッジフィルタを選択できます。

6.レンジシフタ:標的の深さに合わせて、陽子線のエネルギーを吸収させ、到達する距離を調整する機器です。バイナリ型を採用しており、複数のレンジシフタを組み合わせで利用しています。

7.モニター駆動架台:陽子線の平坦度を測定する”平坦度モニター”や”ライトローカライザー”、”X線管”、”プロファイルモニター”、”ビーム通過穴”を搭載した架台です。必要に応じてビームライン上の機器を取り替えることができます。

8.ブロックコリメータ:項目3より下流で発生した不必要な散乱線を遮断する働きがあります。

9.多葉コリメータ:複数の可変リーフで構成されており、可変リーフを制御することにより任意の形状を生成することができます。多葉コリメータは、陽子線を成形し、標的の形状(ビーム進行軸と直交する方向)に合わせることができる機器です。

10.患者コリメータ:陽子線を標的の形状に合わせるため、患者毎(ビーム毎)に加工された真鍮製の金属ブロックです。治療計画時に必要と判断される場合に、製作され装着されます。

11.患者ボーラス(補償フィルター):標的の末端形状に合わせて陽子線の飛程を調整するポリエチレン製のブロックです。こちらも治療計画時に必要と判断された場合に、患者毎(ビーム毎)に作成され装着されます。

12.治療台:治療計画シミュレーションで決定した照射範囲に適合するよう、患者さんの乗る治療台は角度を含む6軸の複雑な移動が可能です。またノンコプラナー照射を可能とするための計算機能を持った寝台移動が可能です。

13.Ⅱ管および駆動架台:X線の撮像管であるII管とそれらが搭載された架台になります。電動タイプで挿入及び退避が可能となっています。

14.可搬式プロファイルモニター:治療室内に導入される陽子線の位置を確認できる装置で、必要に応じて操作者が設置し利用します。

6陽子線の調整、運転管理、状態監視等を統括して司る制御系

当センターではより多くの患者に対し、安心して治療を受けて頂くために、一日に数十門の照射ができることを前提としています。そのためには患者の標的深さ毎で陽子線のエネルギーを変更する必要があります。これらを実現するためには、これまでに述べた入射系からビームライン機器までを緻密に制御する必要があります。そのため粒子線治療装置は、照射制御系および加速器制御系で構成される一方で建屋設備の制御系および放射線管理の制御系からの情報も取得できるように構成されています。陽子線を照射する際に照射制御系から加速器制御系へ照射条件を通知し、加速器制御は指示された照射条件に適した加速器の設定・調整を行い、ビームを供給・遮断できる仕組みを整えています。それぞれの系はシーケンサで繋がっており、全系のシステム制御が可能となっています。

加速器制御系

加速器制御系は入射系、低エネルギービーム輸送系、主加速器系、高エネルギービーム輸送系、ビームを確認するためのモニター系などの加速器に関わる全系監視を担う計算機があり、それらの状態を常時確認するためモニターが設置されており、加速器に関わる全系を制御できるようになっています。MMI(マンマシンインターフェース)にて操作性にも優れ、安全に操作できるデザインとなっています。

照射制御系

照射制御系は主として4つに分けられており、治療制御計算機・機器制御計算機・位置決め計算機・保守端末で構成されています。治療制御計算機は、粒子線治療装置照射制御系のオペレータとのインターフェイスを担当する計算機であり、添え付けされたカードリーダーで患者情報を取得したり、測定の情報などを取得したりすることのできる計算機です。機器制御計算機は、機器の動作を司るインターフェイスユニットとの情報を遣り取りするほか、放射線管理PLCとの通信を担っています。位置決め計算機は、治療計画情報にて指示された照射位置に患部を合わせるために使用する計算機になります。治療計画装置から治療計画画像情報の一部として受信したDRR画像と、治療時に取得した位置決め画像とを比較し、移動量などを算出することが可能な計算機になります。保守端末は測定結果やデータの評価・管理などを実施する際に用いる計算機となっています。照射制御系はシンプルに構成されており、治療照射の際に放射線技師が迅速にかつ的確に操作できるシステムとなっています。

装置全体を通じて機器の状態(電流値、水温、水圧、設定位置その他故障)が常時監視されており、異常があると各系制御計算機を通じて表示される仕組みとなっています。障害の重篤度も判断されると共に発生箇所の推定も可能としています。またビーム照射・停止条件はグローバルインターロックが監視し、同時に放射線安全管理へ状態を伝送することで、粒子線治療装置としての安全性および健全性を担保しています。